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チーム医療

盟友がなにやら面接で問われたらしいので。ものすごく余計な関与なんだろうけど、これから書くことを笑って許してくれ(苦笑
「チーム医療」のチームの構成員は誰か? Wikipediaの項目にもあるが、医師を含む、患者と関わる一切の医療業務者(看護師・介護師・理学療法士作業療法士…etc. 一括してコ・メディカルと呼称される)との一体的連携により医療行為を実施することである…と私の言葉でいうとこうなる(公式な定義の存在を指摘できなかったので)。他科の医師同士が連携して行うの医療行為は「集学的医療」という言葉の方が該当するだろう。もっとも、M.D.アンダーソンがんセンターの記事によれば、歴史的にはこの両者の起源は同じであり、明確な区分は無さそうであるが。
では、何故昨今、殊更に「チーム医療」の重要性が叫ばれ、あまつさえ研修医の面接で出題されるようになったか。私が考えるに、主な理由は3つ。
一つは、M.D.アンダーソンの例でも分かるとおり、癌治療における「チーム医療」のシステムの重要性である。癌の治療には現在、外科的療法・化学療法・放射線療法・およびその他の療法(免疫療法)があるが、それぞれにスペシャリストがいて、これらの治療を組み合わせることで、高度な治療を施行することが出来る訳だ。さらには、外科的治療で用いる各種器具の多様化に対応するMR、多様化する抗腫瘍薬の専門家たる薬剤師の協力が不可欠で、かつ、ターミナルな患者に対する心理的・社会的・経済的サポートに与する職種が、癌治療には必要不可欠である。故に、これら各種職者が連携して治療に携わらねばならない、という背景がある。
第二に、上記と密接な関連があるが、最近の医療の発達は、多種多様な器具・技術を提供するようになり、また且つそれらの専門性が高くなる一方であり、従来の医師・看護婦のみがそれら一切を習得することは、時間的に事実上不可能であり、また非効率的である。それ故に、各種のスペシャリストであるコ・メディカルの種類が増加してきた。職種が増加すれば、それらを纏め上げ、連携させる「チーム医療」のシステムが必要となるのは当然である。
で、最後が一番肝腎なのだけど。目標が掲げられる、ということは、それは暗に目標とされている事が、これまで成されていなかったという事実を示している、ということなのだ。何故なら、既に達成されているならば、今更“目標”など立てる必要はないのだから。今殊更に「連携が重要だ」と叫ばれているということは、これまで連携が上手くいっていなかった証拠だわな。
…ということは、誰でも分かる。だからこそ盟友も「それっていままでもやってきていたことなんじゃないの?」と首を傾げることになるのだが。…しかしよーく鑑みてみると、「チーム医療」の説明によくあるような、患者が中心にいて、その周囲を、医師と各種コメディカルが同一円周状に取り囲んでスクラムを組んでいる、なんてことは無くて、旧態依然として、医療従事者がすべて医師の配下に入ってしまっている、医師を頂点としたヒエラルキー的システムが、あるいはその残滓が、はたまたそのシステムが未だ存在していると“思い込んでいる”医者がいる、という事実が見え隠れしている。 少なくとも、現在看護学生で実習中の妹の恨み言や、「どうせ俺達は医者の指示が無いと動けないんだよ」とこぼしていた作業療法士の旧友の言葉を、私は耳にしているよ。或いは病院の看護師さん方の立ち話とか、BST/市中病院実習中のepisodeとか。別にマスコミに頼らずとも、情報のソースは転がっているものだ。

私が印象深く思っているepisodeがある。院外実習・救急部の見学をしていた時の事だ。交通外傷の患者が搬入されてきて、CTを撮像したときの事。救急部スタッフDr・nurseや搬入してきた救急隊員全員がCT操作室に入って、ディスプレイを注視していた。たまたま位置的に私の所に椅子が近くにあったものだから、立ってても場所をとるだけなので座ろうかと思い、でも待てよ? 搬入してきた救急隊員の方のほうがお疲れだな、そもそもここにいる人間の中で一番下っ端なのは俺だろう、と思い直して隣にいた救急隊員に椅子を勧めたことがあった。ベテランの方のようで、ひょっとしたら俺はおろかスタッフDrの誰よりも年が上だったのではなかろうか? そうしたらその方、「いやいやとんでもない。先生こそお座りになってください」と物凄い勢いの謙虚さで勧め返されてしまった。BTS開始前の何も知らない時分だったもので、声にこそ出さなかったが「えーっ!」と心底驚いてしまったことは、今でも記憶に新鮮である。

しかし、従来型のヒエラルキーシステムもいよいようまくいかなくなってきた。…いや、うまくいかないことが露呈してきた、というべきだろうか。医療訴訟の増加である。患者の異変に真っ先に気付くのは、患者と最も接触機会の多い看護師らコメディカルの方々だ。その方々の意見を軽視した結果、手遅れになって死亡。そういう反例がぼろぼろと出始めたから、最近になって「チーム医療」の重要性が認識されるようになった、というところだ。要はフィードバック・システムを確立させろ、というところだろう。

実はNASAスペースシャトルの打ち上げにも、同じようなエピソードがある。チャレンジャー号の爆発事故である。実はある部品が問題を起こすかもしれないということは既に打ち上げ前に指摘されおり、現に制作を行ったエンジニアから打ち上げの延期が主張されていたのである。しかし危険性を示す積極的データもなく、また政治的配慮からも上層部は打ち上げを強行してしまった。この事件以降、NASAは制作に関わったすべてのエンジニアに、打ち上げの延期を進言する権限を与えている。

指示する立場の者がふんぞり返ってもロクなことにならないのは、何も「踊る大走査線 The Movie」を見なくても分かることである。が、学生身分でこんなこと書いていて、いざ実際に医者になってみたら、妹に軽蔑されるに極まりない輩になっていたら、それこそ至極の羞恥プレイだ。…そんなの嫌だなぁ(笑 いつでも、謙虚さを忘れず、しかし仕事の区分を明確に、しかも必要ならばその区分を超えることを躊躇わせないこと、が重要だと思うのだが、如何なものか

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