最近、「○○先生(オレのこと)っていつも楽しそうに仕事してるよね」とか「あんまりクヨクヨしないで働くよね」とか言われることが多い。多分、昔のオレを知ってる連中からすれば何事かと訝しがる事態である。
大体、“ソレ”が事実なら、オレの頭皮はこんなにも(文字通り)不毛化が進まないのである。…まぁそれだけオレの鉄仮面ぶりも板についてきたということなんだろう。結構なことだ。
そもそも、どんなに苦悶の表情を浮かべたって、泣き言喚いたって、この娑婆に救いの手なんざ現れないのである。それならいっその事、磨耗し尽した挙句「我が生涯に一片の意味なし」とかのたまってあぼーんした方が、なんぼかマシだろう。最近そう思うのである。
それにだ。オレにはこの言葉がある。それで十分、やっていける。
「負い目、ですって…?」
「そ。同情とか憐憫とか、そういうの。
いいかい人間のお嬢さん。絶望にいるモノを救おうとするのなら、負の感情で動いてはいけないんだ。
負は正でなければ打ち消せない。悲しみに陥ったモノを哀しみで掬い上げでも、癒されないものがあるんだよ。
———ま、あれだな。救った後の社会復帰まで受け持つってんなら話は別だが、人間、そこまで暇なヤツぁ希だからな」
ケラケラと笑う。
遠くで怪物の咆哮が聞こえる。
バゼットはきょとんとオレを見つめている。
「分かり辛かった? なら例えばの話をしよう。
ある場所に、世界で一番不幸な目にあっているヤツがいるとする。ある日、アンタはそいつの事をニュースで知って落ちこんじまうんだが、それは意味のない感傷なんだ。
遠い世界の話には関われない。自分には関係のない所で誰かに不幸な出来事が起きたとしても、アンタは笑っていろ」
…そう、自分の世界にないものを救おうなんて、それは自分の世界を否定する事になる。
口にするまでもない世の摂理だ。
関係のない人間、反対をしない人間は、それだけであらゆる不幸を肯定している。
その不幸は覆らない。なら、何者かを犠牲にして立ち行っている幸福を甘受できなくてどうする。
たとえ醜悪な生であろうと、恵まれているのなら笑って受け入れなければ嘘になる。
その矛盾、その醜さと一生涯向き合っていくのがまっとうな人間だ。
人間は自分しか救う事はできない。
他人の為に他人を救おうなんてのは死に値する言い訳だ。
そんな奇麗事では誰も救えない。
だが———それでもなお、自分以外のものを救えると信じるなら。
自分以外の誰かを、救いたいと囀るなら。
「———そうだ。それでも何かをしたいというのなら、せめて笑いながら救いに行け。
見捨てられないから残るとか、可哀そうだから戻るとか、そういうのは余計なお世話だ。一緒に苦楽を共にしようなんて、間違っても抱くなっていう事でさ」
共有するのは楽だけでいい。
苦しみを伴って助けに来られても迷惑だ。
望むのは問答無用のハッピーエンド。
失い続けた日々を上回る愛と平和。
…そう。
例えば、昏く沈んだ瞳が。
差し伸べられた手に、輝かしい未来を見られるように。
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