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Double Side 〜こんにゃくゼリー問題について2側面からのエントリ〜 当直医の警告

はてなブックマークですっかりホッテントリ化した上記案件だが、恐らくこれまでの各blogでまだ述べられていなかったであろう側面からのエントリを2題、提示しようと思う。エントリそのものは2つに分割するため、もし時間があればそれぞれをご覧頂きたい。まずは、前編(後編はコチラ)。

デフコン1

救急外来当直医の任に当たっている立場から述べさせてもらう。今回の食物による気道閉塞も、(現在はエントリが消去されているが)「虚構組曲」で挙げられていた「アレルギーを有する子供にアレルゲンを摂取させる(卵アレルギーの子供にプリン食べさせたんだっけか?)」事態も、搬入された病院で初診に当たった当直医が真っ青になる事例である。何故か? 緊急度デフコン1=直ちに(数分以内に)適切な処置が行わなければ命に関わる事態だからである。

卵アレルギーの人に卵を食べさせるのは、その人の首を絞めるのに匹敵する

救急医学最大の鉄則は、「脳をいかに保護するか」にかかってくる。なぜなら脳を構成する神経細胞は、酸素の供給が数分でも断たれるとすぐに死滅してしまうだけでなく、その構造はもう二度と修復されない(神経細胞は原則的に分裂しないから)。心停止しかり、脳梗塞しかり、脳に酸素が供給されない事態は、こういう理由で直ちに適切な処置を行わなくてはならないのである。
そういう意味では、窒息もまた“酸素の供給を止めてしまう”ので、結果的に脳に大ダメージを与えてしまうことになるから、緊急事態であるのは容易に理解して頂けると思う。どのくらい緊急事態かというと、詰まった物が吐き出されないなら、とりあえず“喉に穴を開けて”空気の通り道だけでも確保しなけりゃならないくらい、緊急事態なのである(勿論、闇雲に穴を開けるんじゃなくて、ちゃんと手技としては決まってます)。
では、食物アレルギーはというと、食べた直後には何ともないのが曲者である。アレルギーの危険性を知らない輩は「ほら、大丈夫じゃないか」とのたまうのだが、ちっとも大丈夫じゃない。アレルギー反応は、摂取してから大体数十分して現れる。一番目に分かるのが皮膚が真っ赤っかになるので、この段階で大慌てして病院に飛び込んでくる。そして「皮膚が赤くなった、なんとかしてくれ」ということになるのだが、医者の意識はもはや別なところに向いている筈である。
まぁもっとも、大半の場合、それなりの処置(まぁ、色々あるんだけど)をすれば皮膚の赤みなど引いてくるのだが、一部の症例では、“喉に同じことが起こっている”。赤くなった皮膚をよく見てほしい。腫れているのが分かると思う。あれはアレルギー反応による炎症で浮腫を起こしてるのだが、重度のアレルギーを起こした場合、喉に同じことが起きて、浮腫を起こした気道が詰まってしまうことがある。これを我々は「喉頭浮腫」と呼ぶが、なんにせよ、要は窒息である。それがどれだけマズい事態かは、もう一度上記をお読み頂ければ、ご理解頂けよう。ましてや子供の気管は元々狭いので、少しの浮腫でも簡単に気道が閉塞してしまうのである。
(医学的にはもう一つの緊急事態として、「アナフィラキシーショック」という、これまた救急処置を要する病態があるのだが、それは他の情報源をご参照頂きたい。また、アレルギーによる喉頭浮腫に対する医学的対処に関しては、ここでは述べない。専門書を当たられよ)
当直医の顔が青くなる理由、「卵アレルギーの人に卵を食べさせるのは、その人の首を絞めるのに匹敵する」という隠喩が、あながちオーバーな表現ではないこと、ご理解頂けたであろうか?

「知らない」のなら「教えればいい」

生憎様、こんな辺境blogにどれだけの読者が集まるかは、甚だ怪しいものである。当直の任に当たる医師という立場から、こんなエントリを書かせてもらったものの、このエントリが啓蒙の機能をどれだけ有するかは、疑問を持たざるを得ない。
ただ、アレルギーという疾患がどれだけ危険を有する疾患か、少しでも分かってほしいと願ってこのエントリを掲載した。「知らないことってのはあるものだ」は、まったくもって事実であるのだが、だからといって知らなくてもいい情報でもないし、なにも好き好んで情報弱者になることもないだろう。確かにネットの世界は玉石混合、正誤の情報が入り乱れた混沌そのものなのだけれど、オフラインでの自分の立場を“悪用して”、少しでも情報提供できるなら、幸いこの上ないのである(勿論生憎当方は救急医学の専門医ではない。情報に誤りがあればご一報頂ければ幸い)。「情報化社会」を称するなら、情報は積極的に頒布すべきである。
願わくは情報の拡散により、1件でも無用な犠牲が減らんことを。

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