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Failure of saṃsāra(reincarnation)

ソース元である野口健さんの公式blogはこちら。ただ、写真はかなり衝撃的なので、耐性の無い方はご覧にならないことをお勧めします。そしてこのエントリの続きも。
さて、先日のエントリ内容ではないが、趣味が登山・トレッキング(とはいえそんなに体力は無いので縦走登山などではなくあくまでも日帰り登山程度であるが)なので、山中、あるいは森林中で大型哺乳類の屍骸に出くわすことは、決して稀ではない。分解に時間を要する大型の死骸には、蝿が飛び回り蛆が湧くのは珍しい光景ではない。ただ、殆どの場合既にかなり白骨化している。上記の原発20キロ圏内の様な惨状にはならない。何故か。
答えは単純。蛆以外にも所謂“分解者”は、本来の自然界にはうんざりするほど存在するからである。猛禽類やカラスなどの鳥類やキツネなどの中型肉食哺乳類が屍肉を食べ、蛆以外の各種節足動物(およびその幼虫)がその残りを漁り(その幼虫さえ他の動物の糧となりうる)、なお残る有機物は菌類・細菌類が悉く分解し、死骸は速やかに他の生命の炭素・窒素源として循環を継続するか、無機化合物として待機中に“還元”*1されるからである。炭素循環に回帰することこそ、現代の“輪廻”に他ならないのである。
さて、一方の餓死した豚や牛の場合、厩舎の中であるのでまず屍骸を捕食する鳥類・大型哺乳類が進入できない。となると接触可能な分解者は成虫が飛翔できる昆虫類か、空気中に舞う胞子が付着できる菌類、土壌中の細菌類に限られる訳だが、この中で死骸の分解速度が最速なのは、蝿の幼虫である蛆になる。なにせ孵化が早過ぎて昆虫のくせに幼虫を死骸に直接産みつける(メスの体内で孵化してしまうため)類もいるくらいだ。また昆虫類の個体数の多さ、個体あたりの産卵数の多さ、および幼虫(蛆)の摂食量の多さを考えれば、厩舎という非自然的環境内で発生した屍骸の分解の結末として、蛆が大量に湧くという惨状に至るのは、ある意味必然なのであり、それが“非自然的”な過程であることも認識しなければならない*2
最速で大量に死骸に出現するという性質に加え、只でさえ“死穢”の象徴である死骸に群がるということも併せて、日本人の「穢れ思想」が相当敏感に反応する今回のエントリおよびニコニコニュースの記事だが、写真の惨状もさることながら、畜産という人間の営みがある日突然停止したらどのような光景になるかを象徴的に暗示するものであったと、生物学的な視点からは考えざるを得なかったのである。

*1:化学反応の「還元」とは意味が異なるので一応引用符付き

*2:そういう意味では、ヒマラヤなどの高山で、食糧どころか事故死した登山者の遺体が分解されずに残ってしまうのも、対極的に非自然的な光景であるのは、今回のレポが野口健さんであるというのも、何とも皮肉な話ではある。

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