力を蓄え、技を身につけるために最も肝要なるものとは何じゃ。そう訊ぬれば百人が百人、努力精進にほかならぬと答えるであろう。しかし、わしはそうとは思わぬ。
努力精進よりも肝要なものがある。それは、渇えじゃ。いつかかくありたしと願いながらも、努力精進すらままならぬ貧乏人はひたすら飢え渇するほかはあるまい。その拠るところも捉むものもない飢渇こそが、やがて実力となり技となる。
持たざる者ほど、持っておるのだ。
水も肥も与えられずに、それでも咲かんと欲する花は、雨を力とし、風すらも肥とする。そうしてついに咲いた花は美しい。
人殺しの剣すらも、舞うがごとくに見ゆるほどにの。浅田次郎 『一刀斎夢録 下』
- 作者: 浅田次郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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注: 引用中ルビ原文ママ