twitterでも呟きましたが、先日「Minami Produce verse.05 僕らの心象風景における、いくつかの考察」A/B両版観劇してきました。
思う処は幾つかあるのですが、それは、台本が届いてからのお楽しみ。で、今、「あ!」と思う処が有ったのです。それは、A/B版共通のプロローグから
「ふつ〜って言葉は人によって」
「お月様と太陽くらいの距離があって!」
そう、“普通”という何気ない言葉。何気ない癖に、明らかに程遠い偶像。その“偶像”を描き出した作品を、俺は、知っている…
少し長いが、引用に努力しよう…
……彼女は思う。
何の特徴もなく、自分が特別であろうと希望する事なく生きられる人間なんていない。
人間は誰だって複数の考え、対立する意見、相反する疑問を抱えて生きている。
その化身が両儀式という人間だとすると、彼はそれが極めて薄い人物———
誰も傷つけないかわりに、自分も傷つかない。
何も奪わないかわりに、何も得られない。
波風をたてず、ただ時間に融けこむように人々の平均として暮らしていって、静かに息をひきとっていく。
平凡な、当たり障りのない人生。
けれど社会の中でそういう風に生きていけるのなら、それは当たり前のように生きているのではない。
何とも争わず、誰も憎まずに暮らしていくことなんて不可能だ。
多くの人々は自分から望んでそんな暮らしをしているわけではない。特別になろうとして、成り得なかった結果が平凡な人生というカタチなのだ。
だから——初めからそうであろうとして生きるコトは、何よりも難しい。
なら、それが"特別"なこと。
結局、特別ではない人間なんていないんだ。
人間は、ひとりひとりがまったく違った意味の生き物。
ただ種が同じだけというコトを頼りに寄りそって、解り合えない隔たりを空っぽの境界にするために生きている。
そんな日がこない事を知っていながら、それを夢見て生きていく。
きっとそれこそが誰ひとりの例外もない、ただひとつの当たり前。
……長い、静寂のあと。彼女はゆっくりと、白く広がる夜の果てに視線を戻した。
誰にも理解してもらえない特別性と、誰もが理解しようとしてしない普遍性。
誰から見ても普通な存在故に、誰も深く彼のことを理解しようとしない。
誰にも嫌われないかわりに、誰も惹きつけることのない誰か。
幸せな日々の結晶見たいな彼。なら、独りきりなのは、はたしてどちらだったんだろう……?
———そんなこと、きっと誰にもわからない。
たゆたう海を見つめる彼女の瞳には、その波の用に密やかな悲しみがある。
誰に語るのでもなく、囁きが漏れた。
「あたりまえのように生きて、あたりまえのように死ぬのね」
ああ、それは———。
「なんて、孤独———」
終わりのない、始まりさえない闇を見つめて。
別れを告げるように、両儀式はそう言った。
- 作者: 奈須きのこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/06/08
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