こんな夜更けにポトフかよ。 pic.twitter.com/CbPHEuqmij
— Terra Khan (@DrTerraKhan) 2021年12月6日
料理を作っていて一番困るのが、「塩胡椒少々」なのだ。
『理系が恋に落ちたので証明してみた。』で、主人公が「少々とはいったい何グラムなのだ!?」とキレていたシーンがあった気がするのは、気のせいだろうか。
だが、ポトフを作って、この「塩胡椒少々」が実に恐ろしいものだとわかったのである。
ポトフが茹で上がってから、最後に塩、胡椒を加えることになるのだが、ある事実に気づいた。塩(ここでは挽いた岩塩)を少量加えると、塩味を加えたはずなのに"甘味"が増すのである。スイカに塩をかけたのとは違うだろう。勿論根菜に含まれる糖質もあるだろうが、それに加えてアミノ酸の"旨味"が引き立つ。だから逆説的なれど、"塩で甘くなる"。ところが当然のことながら、調子に乗って塩を加えすぎると、どこかに閾値があるのだろうが、それを超えると途端に塩辛くなる。その閾値がどこなのか、俺には分からない。だから「もう少し塩を加えるべきか」「いやこれ以上加えたら塩辛くなる」の「To be, or not to be, that is the question.」を毎度する羽目になる。さらに食材によって塩分含有量は異なる(今回を例にとるなら、今回はソーセージを使用したが、そのソーセージの製造業者でも塩分含有量は違うし、ベーコンを使用していたのならなおさらだ)。そのため添加すべき塩の量も変わってくるので、最初から「塩少々とは何グラムである」と規定できる訳が無いのだ。
塩ならまだ分かった気になっているが、胡椒は未だ適正値が全く分からない。塩程には、加えた胡椒の量による味の変化が分からないのだ。目隠しして歩かされているようなものだ。俺が馬鹿舌だから仕方がないんだろう。
先の『理系が恋に落ちたので証明してみた。』ではないが、似たような経験はあった。pH不明のBTB溶液を中性を示す緑色になるように、水酸化ナトリウム溶液と塩酸を少しずつ加えていくのである。水酸化ナトリウム水溶液を入れ過ぎれば青味がかり、塩酸を入れ過ぎれば黄色味がかる。緑色を求めて「ああ、入れ過ぎた!」と延々と水酸化ナトリウムと塩酸を加え続ける。アレだ。料理と違うのは、料理は「入れ過ぎ」を許してくれないことだ。入れ過ぎたら反対のものを入れて相殺する、なんてことは料理はできない。一発勝負なのだ。
『異世界居酒屋のぶ』でタイショーが、出汁を引くのに細心の注意を払っていた場面がある*1。そしてその出汁を引くのに14年かかった、と語りかける場面もある*2。あくまでも所詮は物語の一節であるが、設定は元は京都の老舗料亭の椀方。塩胡椒の調整のみならず、食材から生まれ出る味を、そしてその複合を自分の味覚を駆使して最適解にもっていく。それはきっと、凄まじい技術なんだ。