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運河が通れば鯖の塩焼きが食える

つい先日まで、当院に併設する看護学院に講義に行っていた。分野は勿論「血液内科学」。
さて、急性白血病の講義をどうしてくれよう。私は話した。
急性骨髄性白血病(AML)だろうが、急性リンパ性白血病(ALL)だろうが、ともかく"若い幼弱な細胞がイキッて増えまくって問題を起こす"という意味では同じ、症状も似通っているので『急性白血病』っていう言葉が残ってる。でも、(造血幹細胞の分化の系譜を示しながら)そもそも出自が違う、出身が違う。だから治療法が違うんだ」
FAB分類やWHO分類をどう話そう。私は話した。
「昔の人は細胞を色素で染めて『何か違う』ってんで分類した。それから遺伝子やら何やら、もっと詳しいことが分かって分類したのがWHO分類だ。なんでそこまで分類に拘った? 別に趣味だからじゃないぞ。『この異常があれば治りにくい』『こういう特徴があれば治りやすい』っていう、未来の予測、つまりは治療の方針に関わるからだ」

このヒントを与えてくれたのは、私が愛読するなろうラノベ異世界居酒屋「のぶ」』の「金貸しの見る未来」である。現時点ではまだ原作のみ。
だので、ここからは一旦隠し。
まずは全作読んで頂きたいが、この場面だけ端折って言うと。



現実世界では中世に相当する、まぁ、ありがちな世界観。この居酒屋で交渉が行われる。
主人公たちが住む都市に、物流を豊かにするために運河を築きたい。この都市の有力者はこれに尽力している。
しかし出資先の銀行がこれ以上の投資を出し渋る。
さて、ここでその応対役の侯爵殿が「飯にしよう」。ここの居酒屋の店主、元は京都の老舗の料亭の椀方。料理は絶品。
交渉相手の銀行マン、舌鼓。
さて、鯖の塩焼きが出てきた。
銀行マン、キレる。「こんな足の速い(腐りやすい)食材を出すとはどういうことだ!」
侯爵殿「俺も食うから、お前もいいから食ってみ」
銀行マン「…むふぅ」「わかりました。投資を追加しましょう」
居酒屋従業員の少女が疑問に思う。「何で追加融資をすることにしたんでしょう?」
「それはね、お嬢さん」銀行マンが言う。

「“古都へ運河を通す”とそれだけ言っても、上の人間には何も分からない。人々もきっとそうでしょう。それではお金は動かせない。残念ながら世の中はそういう風にできています。ですがどうでしょう。“新鮮な魚が食べられる”という分かりやすい未来があれば」



要は、それが分かって何の足しになるのか。そこまで説明しなければ理解してくれないこともあるということだ。
「AMLとALLは別物」と言われて「はぁ」としか答えられなくても、「出身が違うんだから対処も違うでしょ?」と言われればどうか。
白血病はこういうように分類されます」と言われて「はぁ」としか答えられなくても、「これは治りやすいんで造血幹細胞は要らんでしょう、これは治りにくいので移植が必要です」と言われればどうか。
学術的には重要なことはそれはそれとして。それが患者の未来予測にどれだけ寄与するか、そしてその患者の治療を担う医療従事者の行動方針がどのように決まるか。そこまで話さないと、分かってもらえないだろうと思っている。
それは、「運河を通すことが重要」と説明されてもピンとこないけど、「運河を通せば流通する食材で美味いものが食える」と説明すれば分かってくれるのと、似ていると思うのだ。

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