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オルクセン王国史 二次SS 「ドーラとタウベルト: 飛ぶという事」

僭越ながら、二次SSなるものを想いついて作成せずにはいられなかったので。



ドーラとタウベルトは一心不乱に肉を貪っている。
無理もない。通常の兵務ではありえない程の長距離を飛行して、我々に伝令を届けてくれたのだから。

これで勝てる、この戦争に。

だが、其れとは別に、オーク兵達はどうしても気になることがあったのだ。
大鷲族がその背に乗せたコボルト族の飛行隊(パイロットピロート)。
着弾観測など、この戦争で彼らがどれほど我々の戦争に役立っていてくれたか。
階級の差など、どうでもよくなるほどに、彼らは飛行隊に尊敬の念を抱かずにはいられない。
いられないのだが…どうしても、訊きたくなることがあったのだ。その好奇心を、抑えずにいられなかった。
「タウベルト…タウベルト一等兵殿」
オークの兵の一人が、その階級は遥かに上だろうにタウベルト”一等兵””殿”という、敬語だか何だか分からないような呼びかけをして、
「はい…?」
当のタウベルトは「なにか粗相をしてしまったのだろうか?」とすくみ上っていたのだが、
「お聞きしたいことがあります。宜しいでしょうか?」
「え…あ、はいぃ…」
もう萎縮しまくっているタウベルトと、何事かと食事を止めて警戒する、相棒の大鷲族ドーラの前で、そのオーク兵は
「あの…大鷲族のドーラ殿はともかくとして…タウベルト殿はコボルトです。大地に足がつかない、あのような高所で、怖くは無いのですか?」
…あ。
そうか。もちろんオーク兵の言うように、大鷲族は当たり前に高所を飛ぶ、むしろそれが生活そのものだ。しかしあの図体のでかいオークなら尚のこと、コボルトとて地表で生きる生き物だ。自分たち以外の種族が高所にいるときの感覚など、考えてもみなかった。
俺は楽しんでいたが、坊主は実は無理をしていたのではないか…とドーラが邪推を始めたところで、
「怖いです」
一言、タウベルトは言った。
その場にいた全員、波打ったように静かになった。
「あの高さで落ちたら、僕は間違いなく死にます。地に足がついてないって、すごく怖いです」
ドーラは少なからず絶望した。坊主に無理をさせていたのだ。申し訳ないと。
「だけど」
全員が首を持ち上げた。
「本当に綺麗なんです。山々に沈む夕日、誰よりも早く見られる朝日。ヴィルトシュバインの大きな建物も上から見える。地表近く飛べばみんな手を振ってくれる。」
はっとした顔をした。ドーラでさえも。
「ドーラ。僕、言ったよね。『こんな光景、王様だって見たことない』って。これって、すごいことだよ。そう思ったら、怖さなんて、どっかいっちゃった」。
全員があっけらかんとする中、タウベルトは意地悪そうな笑顔で言った。
「ドーラ、僕が『今まで無理をしていた』と今疑ったでしょ? そんな訳ないじゃない。あの時『橋の下をくぐろう』って言ったの、僕だよ?」
その言葉に、ドーラは大鷲族らしくカカカカと大鳴きした。
「そうだった! そうだったな!! おかげさまで後でラインダース族長に飯抜きの刑にされたんだったな! まぁあれはしばらく前線に出るなってことだったらしいが」
「僕もバーンスタイン教授に拉致されて、何か特訓受けさせられたよ。あれ何だったの?」
「坊主! お前何も分かっていないのだな!! こういう時のための訓練であろうが!」
「…あ! そうだったんだ…」
暫く呆けた状態のオーク兵達だったが、暫くして皆笑顔になった。しかしオーク特有の呵呵大笑ではなく。
偉大なる我が王が魔種族を統合して打ち立てたオルクセン王国。王の下なされた魔種族統合とはいえ、それでも幾ばくかの感情的な弊害があった。それを克服するのに120年、120年も費やしたのだ。しかし、今目の前に、異種族が本当に打ち解けあって、互いを信頼し、それ故に新たな戦術・戦略を見出せるのだと。その証明が、目の前にある。

“この国は勝てる。こうであるからこそ勝てる!!”

そんなオーク兵達の情動は全く無視して、
「ねぇドーラ、この戦争が終わったら、僕が商業大学に入る前に、前言ってたやつやろうよ」
「正気か! このオルクセンから道洋の果ての国『アキツシマ』の首都『オエド』まで飛べっていうのか!?」
「別に一気に飛ぼうっていうんじゃないさ。あっちこっち寄ろうよ。ドーラの好きな肉も、きっとたくさん種類があるよ?」
「あのなぁ、肉なら何でもいいって訳ではないのだぞ?」
「そして『オエド』の灯りを見たら僕はこう言うんだ。『見て! あれがオエドの火だよ』」
「なんだ、そのまんまではないか」
「僕はそのまんまでしか言えないよ」
このような他愛もない話…他愛もない話なのだが。
その場にいたオーク兵達は全員姿勢を正した。
「ドーラ殿。タウベルト殿。この戦争は勝ちます。勝って見せます。」
「は、はい…」
「ですから、今の夢物語。実現した暁には、我らがその物語をいの一番に聞かせて頂く。よろしいか?」
暫くあっけにとられたドーラもタウベルトも、状況を理解して
「皆さんに一番最初に報告致します!!」

ただこの後問題であったのは。もうテンション最高潮に達したオーク兵達が、文字通り呵呵大笑しながらタウベルト一等兵を拉致し、ぐでんぐでんに酔わせた一方、ドーラは早々に逃げ出したことは、戦記には記載されていない。
「この裏切り者―!!」
「坊主、生き残るためにはこのような選択も必要なのだ」

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