まず結論から言ってしまうと、映画「インディペンデンス・デイ」の最終出撃前の、大統領演説は大好きなのだ。
www.youtube.com
まぁ、いかにも典型的なアメリカンな感じの話ではあるのだが。だがしかし。
Good morning.
In less than an hour,
aircraft from here will join others from around the world.
And you will be launching the largest aerial battle
in the history of mankind."Mankind."
That word should have new meaning for all of us today.
We can't be consumed by our petty differences anymore.
We will be united in our common interests.
Perhaps it's fate that today is the Fourth of July
, and you will once again be fighting for our freedom...
Not from tyranny, oppression, or persecution
...but from annihilation.We are fighting for our right to live. To exist.
And should we win the day, the Fourth of July
will no longer be known as an American holiday,
but as the day the world declared in one voice:We will not go quietly into the night!
We will not vanish without a fight!We're going to live on!
We're going to survive!Today we celebrate our Independence Day!
これが原著。
日本語訳は
おはよう
今から1時間後君らは世界各国のパイロットと共に
人類史上最大の作戦をスタートすることになる「人類」という言葉は今日新しい意味を持つ
人種の違いを乗り越えて
1つの目的のために結ばれる奇しくも7月4日これも何かの運命だ
君らは再び自由のために戦う
圧政や弾圧から逃れるためでなく
生き延びるためだ地球に存在する権利を守るために
勝利を手にしたなら
7月4日は米国の祝日であるだけでなく
人類が断固たる決意を示した日として記憶されるだろう我々は戦わずして絶滅はしない
我々は生き残り
存在し続けるそれが今日我々が讃える人類の独立記念日だ
これを踏まえて、英文原本と日本語訳を見比べると、存外面白いことが分かる。
- In less than an hour,
まず初っ端からこれだ。「今から1時間後」ではなく「今から1時間経たずして」なのに、なぜこんな訳を当てたのか…
- aircraft from here will join others from around the world.
「君らは世界各国のパイロットと共に」としか訳しようが無いのは分る。問題は"aircraft"という単語。直訳すれば「航空機」なのだが、それに従って馬鹿正直に訳すると「ここから出発する航空機は、全世界から来た航空機と合流する」…なんだこの味気ない文章は。
実はここに予想外の話が加わる。出川哲朗氏の「スカイママ」である。「Do you know "skymama"?」…空母、航空母艦は英語でaircraft carrierなのだが、それを知らずに「空母」をそのまま空=sky・母=mamaにしてしまったから「スカイママ」なる珍語が出来上がってしまった。それでも目的地にたどり着くのがすごいのだが…
という訳で、空母が運ぶのは当然戦闘機(でなくても軍事に関わるもの)であるので、この状況で"aircraft"と言っているのは、当然航空機ではなく戦闘機なのだ。で、「ここから出発する戦闘機は、全世界から来た戦闘機と合流する」…これでもまだダメ。戦闘機…でなくても、航空機の操縦士はパイロットだ。そこまで意訳して「君らは世界各国のパイロットと共に」なのである。
- And you will be launching the largest aerial battle in the history of mankind.
「人類史上最大の作戦をスタートすることになる」…おい、"aerial"の訳どこいった?
”aerial battle"=空中戦なのだが、日本語訳はすっぽり抜けている。英語では(アメリカでは?)陸戦、海戦、空戦の区別は明確にしなければならないのかもしれない。まぁ海上にある敵艦は核兵器で落とせという台詞もあるので…。
- in the history of mankind..."Mankind."
"Mankind"という単語を発して、暫し言いよどむ。ありふれた単語なので言ったが…これからはその言葉の意味の重さが変わるという前振りである。これに続いて
- That word should have new meaning for all of us today.
となる。
- We can't be consumed by our petty differences anymore.
ここも面白いところ。"consume"=消費する…え? 消費? 消耗するという意味もある。"petty"は些細な、なので「これ以上些細な違いに消耗されることは無い」が直訳なのだ。「(人類存亡の危機を前にして、人種とか宗教とか)細かい違いに付き合ってる場合じゃねぇ」という話である。
- Perhaps it's fate that today is the Fourth of July
ここも日本語訳と相当意味合いが違うところ。およそ理解される範囲では"perhaps"は「ひょっとしたら」という可能性が少ないことを示す表現である。だのに、日本語訳では「くしくも」=奇しくも…「奇し」とは不思議である、稀であるという意味合いである。そういう意味では"perhaps"と似ているのである…が、日本語でわざわざ「奇しくも」という接頭語を使うのは、「普通に考えればきわめて稀で不思議であるが、そのようなことが起きたからには、その原因と結果には因縁を感じる」まで行ってしまうのである。"Perhaps it's fate that today is the Fourth of July"=「今日(エイリアンに対する最終決戦日)がアメリカ独立記念日(ID4)なのは、何かの運命なのだろうか」程度の意味に考えるべきだろう…この時点では。
- Not from tyranny, oppression, or persecution
日本語訳は「圧政や弾圧から逃れるためでなく」…あれ? 原文は3つの要因なのに、日本語訳は2つ? ここも価値観のずれの問題なのだろう。
-
- tyranny: 独裁
- oppression: 圧制
- persecution: 迫害
塩野七生さんの「ローマ人の物語」は史実ではなく小説だとしても、古代ローマ人と日本人ほど、専制君主制に嫌悪感を呈する民族はいないという意見に賛同する。であるならば、「oppression: 圧制」と「persecution: 迫害」が揃った時点で、「tyranny: 独裁」は"言うまでもない"になるのではないかと、私は考える。
- ...but from annihilation.
これが一番考えさせられた。日本語訳は「生き延びるためだ」だが、それなら"extermination"「絶滅」でよかったろうにと思うのだが。なぜ"annihilation"にした?
これも私の妄想の域を出ないが…"annihilation"には物理学的で「対消滅」という意味もある。敢えてこの単語を選んだのは、対消滅…討ち死にすらする気はないぞ、生き残るのだ! という意味も持つのだろうか。
- "We will not go quietly into the night!"
この演説の原著を読むうえで最大の難題がこれ。いや、大儀は分るのだが、原著に引用符が打たれている以上、さらにその原典があるはずだ。だがどうにもはっきりしない。
少しばかりのヒントを見つけのは。Dylan Thomasの詩「Do not go gentle into that good night」が原典ではないか*1とのこと。情報求む。
- We're going to live on! We're going to survive!
ほぼ同じ意味を表現を変えて々繰り返すのは演説でよくある。
- Today we celebrate our Independence Day!
ここで映画の表題回収となる。
さて、私の解釈は如何か?