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最後のカードを切る

救急医療において、叩き込まれた概念がある。「最優先事項」と呼んでもいいかも知れない。…いや、ABC*1とかトリアージとか、そういうことではなくてな。

そして禁忌は「スタントプレー」つまり、自分で何でもやってしまおう、と考える事である。医者であろうと無かろうと、resourceがなけりゃタダの人。一つ違うのは「出来る事が限られている」ということを自分で把握していることである。故に、対処可能な状況下へ患者を可及的に搬送せよ、と。
故に最初にすべきは「人を呼べ」「救急車を呼べ」「AED*2を持って来い」「最も近い医療施設はどこか確認せよ」と指示することである。現在地がどこかによって呼ぶものは違うけど、「マンパワーの確保」が大原則なのは変わりはない。(「Phone fast」という事例もあるが、それはそれとして把握しなければならないんだが)。ABCとそれに続く処置はその後だ。
…ということを、条件反射レベルの反応速度でしなけりゃならない。「損するかもしれない」と考えている場合ではないのである。
スタントプレーをする場合もあるだろう。しかしそれはそうせざるを得ない状況になった場合のみに切られる最後の手段だ(航空機・船舶内・山中などの隔離条件下、マンパワー充填が間に合わない場合のみ)。「目の前で産気づいた人」を見たときに真っ先にすべきことは「救急車」を呼ぶことであり、自らの手で取り上げることではない。流石に排臨しているまでに状況が進んでれば分からないが、普通はそこまで放置プレイする人はいないのだから。まぁそれ以前に、クリニカルクラークシップで産科勉強したぐらいでは、お産などとれはしませんが。産科の先生曰く、「初期臨床研修で1ヶ月ぶっ通しで病院に寝泊りしてたら最終日ぐらいにはとらせてあげる」という代物なんだから。
リンク先の本文中に出ているような

アメリカでの話だが、研修医が急病人を助けようとしたものの、結果的に相手に不利益を与えてしまって訴訟になった。 裁判の結果、良きサマリア人法に則って刑事罰も損害賠償も課されなかったが、研修医は州及び裁判所に数回に渡って呼ばれ審理を受けなければならなかった。 しかも研修医であったために、職場からの法的援助が得られず、感情的・時間的のみならず財政的な損失も被った。 『良きサマリア人法』があってさえ、この有り様である。

の例も疑問である。特に「研修医」と書いてあるところが。事実はどうか分からないが、この事例は研修医が上級医を呼ばなかったことを裁判で突っつかれたのではないだろうか? 最近話題になっている産科医の逮捕の件も「1人で処置した」ということが突っつかれている。但しこの場合は、「マンパワーもresourceも確保できない環境に設定されていた*3のに訴えられるのかよ」という理不尽があるので話が違うのだけれど。
故に医療者側の次の一手は「人員の集約」。日本にまず必要なのは、隔離条件下で発動される「よきサマリア人法」よりも、その隔離条件を潰す医療体制のシステム化、そして一般の人にその必要性を理解してもらうことにあると考える。ちなみに何をやっても煽り文句しか書かないマスゴミ対策も必要かと。免責ではなく、事象発生率の減少を図れ。解不定で誤魔化すのではなく、最良の選択を想定し、現実とのニッチを埋めることが必要だ。

*1:airway、breathing、circulation

*2:AED: 自動体外式除細動器。人が意識消失して倒れた場合、最速の処置(5分以内!)が必要なのは心室細動等であるため。最近は、トレーニングセンター、航空機内、ショッピングモールなど人の集まるところには結構配備されている。詳細はコチラのサイトを参照されたい。

*3:応援や輸血確保に数時間を要するような状況は、上記の隔離条件下に匹敵する。

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