ちょっと呟いてみる

日々の戯言、写真、旅行記、好きな音楽、格言、Minecraftプレイ記録

血液内科は動かない

さて、久しぶりの長文。読まれますか?

今は昔

もともとこのblogの「臨床研修」タグは自分が臨床研修中に考えたことを分類するためのものだった。必然、2年前に初期臨床研修を修了してから久しく使用してなかったが、まさかこの期に及んで“教える立場”になって、このタグを使う日が来るとはね。いやはや、あの研修時代がすら最早昔日の感すらする。
とはいえ、事の発端は、医局人事で縮小の憂き目を食らった現在の職場で、「なら今までやってこなかったことをやってやろう」という意気込みのなか、これからやって来る当科での研修医の研修指導ガイドラインの作成を科長から仰せつかった事に始まる。…っていうか、この病院はなんだかよく分からんがやたら研修医が集まるのに、他の科でも指導ガイドラインすらなかったんかい! って思わず突っ込んだんだが。やれやれ、うちの病院の研修システムはいったいどうなってるんだ。
…という訳で、作成したのがつい1ヶ月前。今回、medtoolz先生の上記エントリを読んで、思ったことをつらつら。

研修内容は制限する

効率の問題は多少あるだろうけれど、研修医の人たちが、与えられた2年間という時間で学べること、体験できることはやはり有限で、限られた時間、限られた能力の中、研修医の人たちに、どんなことを教え、どんな経験をしてもらうことで、翌年以降の成長につなげられるのか、こういうものは、伝えることよりもむしろ、何を伝えず、何を教えないのか、教える側が、教えないものに自覚的でないと、伝達が上手くいかない。

2年どころか、それこそ血液内科志望で自由選択期間を大量に消費するのでもなければ、当科滞在期間は2か月がいいところだ。そんな短期間で研修内容の量ばかり増やしても、身に付くものは少ないだろう。
それに、最初っから血液疾患を研修させる気はないのだ。medtoolz先生が執筆し先日発売になった『内科診療ヒントブック』には、「血液疾患のことがほとんど書かれていません」とのこと。多分、その選択は正しい。血液疾患に対する化学療法を含む治療戦略の組み立ては、内視鏡カテーテルと同じように一種の専門技術アルテだから、初期臨床研修で必死こいて学ぶことじゃない。FCMやFISH、RT-PCRに関する知識も、他の科で応用が利くかと考えれば甚だ怪しいものだ。
では、初期臨床研修で何を学ばせるか。それは、今一端の血液内科医をやっていて、つい2年前に「ここもっと研修しておけばよかったな」と幾許かの後悔の念をもって創りだした、当科の臨床研修ガイドラインの一部をご覧頂きたい。どうせ執筆者は俺だしね(藁)

Terra Khanお手製臨床研修ガイドライン一部抜粋
  • 一般研修目標

一人の医師として、診断から治療に至る一連の医療行為を完遂することを目標にして頂きます。そのために必要な知識・技術の習得を目指します。

  • 行動達成目標
    • 問診や身体所見から診断・治療に必要な情報を得ることができる
    • 疾患の質的・量的診断に必要な検査を組み立てる事ができる
    • 問診・検査結果から治療方針・内容を考え、根拠を以て上級医に提示することができる
    • 検査・治療に必要な手技の合併症を想定した上で、安全に手技を施行することができる
    • 患者・家族に対し適切な時に検査結果・治療方針を説明し、理解を得ることができる
    • 患者の主治医となり、以上の項目を一連の流れとして責任をもって実践することができる
    • 自分では解決できない問題に対して、問題点を明確にし、的確に上級医に相談し、問題を解決することができる
    • 看護師・検査技師・栄養士etc.他の職種と一体の医療チームと一員として治療に参画する
  • 実施手技目標

担当症例により実施可能なものとそうでないものがあります。いずれの手技にも合併症は存在します。自分の技量を正しく把握することも、研修の重要な内容です。

    • 一般採血、血液培養採取、動脈血液ガス分析
    • 末梢ルート確保
    • 腹部・心エコー
    • 骨髄穿刺・生検
    • 腰椎穿刺
    • 中心静脈カテーテル挿入(鼡径・鎖骨下)
    • 胸腔穿刺、胸腔ドレナージ
    • 腹腔穿刺

…結局のところ、血液内科でやっていることは、上記の化学療法を含む治療戦略の決定を除けば、殆どは全身管理に尽きるのだ。それこそ、血液内科診療のマニュアル本よりもICUブックの方が詳しいことも結構多い。ショックにだってなるし不整脈だって起きる。間質性肺炎にだってなるし心不全にもなる。感染など最たるもの。「全身管理に必要な知識と技術を身につけていけ」、この一言に尽きてしまうだろう。
「教えること」を明確にすることは、余事象である“「その他のこと」は教えないこと”の対偶なのだ。時間が限られてるなら、ではその期間に最低限知っていってほしいことに限ってしまえ、それを戦略にガイドラインを作成したのだが…まだ、改良の余地はアリアリだよねぇ(笑)

情報は重なる

「これから書き込まれるはずの全てのこと」がリスト化できたら、それぞれの研修病院に、各施設がリストの中から何を選択し、何を削除するのかを、できれば伝達手段も含めて公開してもらえば、いろんなものが見えてくる。熱心さだとか、すばらしさだとか、叫びの影で消されている何かは、体験を受け取る側から動かないと、絶対に見えない。

突貫工事で作成したへたっぴガイドラインを敢えて公開したのは、それこそ、じゃあ他の先生は何を教えたいのか、聞かせて欲しかったから。ツッコミがあれば、きっとそこは改善の余地なんだろう。
内科診療ヒントブック』が届いたら、またこのガイドラインも再検討してみようか。

当blogの記事全文の転載は固くお断り致します。原著作者(Terra Khan)の氏名を表示した引用、トラックバックは構いません。
「Terra Khan's Photo Gallery」の写真はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの指定に準じ、原著作者(Terra Khan)の氏名を表示し、非営利の場合に限り自由に使用できます。ただし、改変したもの(二次著作物)を公開する時、同じライセンスにする必要があります。各写真の署名の記載の通りです。