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Aŋra Mainyu

そろそろ、“アヴェンジャー”についての解説が必要なんじゃないかと。そもそも、「医療関係者」と「Fateやったことある人」の積集合なんて、ほとんど空集合に等しいだろうから(笑)。
という訳で、Fateやったことのない人のための解説および現在医師が直面している危機との類似性の考察です。コレをお読み頂ければ、この概念が決して物語のみに登場する絵空事などではなく、現在の実情を皮肉った代物であることが理解されるだろうと思います。
なお、コレは「Fate/stay night」および「Fate/hollow ataraxia」の話の本幹に関わる内容であるネタバレであることに注意。…といっても、このサイトをご覧の方は、既にプレイ済み、もしくは今後プレイすることがほぼあり得ない方々ばかりでしょうけどね。もう一つ、内容に残酷表現があることにも注意して下さい。



「アンリマユ」———本邦における世界史の教科書には「アーリマン」と表記されることが多いようである。という訳で世界史を学んだ事のある人なら、一度は目にした事はあるかもしれない。ゾロアスター教における悪の最高神であり、絶対神アフラ・マズダと対をなす存在である。
ただし、奈須きのこ氏の描く“彼”は、別にその存在そのものという訳ではない。正確に言えば、「アンリマユ」として祀り上げられた、或る青年の霊体である。
その青年は、どこかの地域の、小さな村に生まれ育った。そして何ということもない、凡庸な暮らしをしていた。
そして何の前触れも無く、突然、今まで一緒に暮らしてきた村人に、そして家族に「悪魔め」と罵られるのである。
彼は村人達に捕まり、
名を抹消され、
片目を潰され、
舌を引き抜かれ、
喉には枝を突き立てられ、
四肢の腱を切断され、
手足の指を、村人に、そして嘗て父と呼んでいた人に、一本残らず切り落とされた。
そして、それでも生かされたまま、村に程近い山頂に放置されたのである。
この儀式の目的、それこそが「アンリマユ」を祀る為であった。
疫病も、作物の不作も、事故も、貧困も、ありとあらゆる厄災は、山頂にいる悪心が、我々に魔を吹き込んだためだ、と。我々に罪は無い。すべて“この世全ての悪”を担う“彼”のせいだと。
もう逃げられない状況の中、彼は問うた。何故自分なのかと。
そして知るのである。彼である理由は、なにもなかった。そんなのは誰でもよかったのである、と。別に悪行を重ねて誰かに恨まれた訳でもなく、善行を重ねて誰かに嫉まれた訳でもなく。顔も見たことのない村の権力者達によって、何の特徴もない、ありきたりな誰かとして、彼は選ばれたのだ。
たったそれだけのことで、何十年と積み重ねてきた人生を踏み潰された。
それを悟ったとき、彼は、人が願ったとおりの悪魔に成り果てた。
こうして“彼”は、人々の悪意を全て請け負うことによって、結果的に人々を救う英雄———反英雄として、英霊の座に就くこととなったのである。
そして、現在に生きる或る魔術師達の儀式「聖杯戦争」の折、英霊として“彼”が召喚されることによって、物語は続いていく…のであるが、それはゲームをプレイした人にだけ関わりのある事。

「こんなの、所詮作り話の中の話でしょう」とは言うなかれ。もし本当にそうなら、俺もここまでこのゲームに傾倒したりしないし、この記事をわざわざ[医療]のカテゴリーに入れたりしないから。

俺達だって“彼”と同じだろう? 訴えられればさ。


別に名声を欲した訳ではない。高給を欲した訳でもない。ただ、目の前の患者を救いたかった。
人手は足りない。輸血の供給も間に合わない。それでも、出来る限りのことをしたはずだ。しかし患者は死んでしまった。
数日後、その医師は告発され、逮捕礼状が出された。
彼は警察に捕まり、
社会的地位を抹殺され、
職を失い、
親類を含めて、顔も見た事も無い評論家か誰かに「人殺し」と言われるのである。


…いったい、“アンリマユ”と何が違うってんだい?
そして医療系ブログは「産婦人科は訴えられるから行きたくないなんて人は、そもそも医者になってほしくないし、そんな人に診てもらいたくない」というコメントを頂くのである。
あと、某ブログのコメント欄にこんなのがあった。流石に、どこのブログかは明言を避けますが…多分すぐわかるでしょう。

「医者を育成するには、我々の税金が使われています。しかもあまりにも高額。ふざけてるのか!!」
「税金で育成されているにも関わらず、給料が高すぎる!!。楽してがっぽり、既得権だ!!」
「高給を貰っているのだから、文句を言わずに働け!!」
「最近の医者は藪ばかり、金のことばかり考えている」
「産科医よりも薄給で激務な仕事はたくさんある」
「嫌なら辞めろ」
スレ主様が産科医を辞められ、自由と安全を得られることを願っております。
家族をご自身を大切になさって下さい。


まぁ、医者という職業に対して敵性概念が向けられる事があるなどというのは、なだいなだ先生がかなり以前に指摘されていたんですが。

人間、この非人間的なもの (ちくま文庫)

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これで、このブログで“彼”を度々取り上げる理由が、分かって頂けたかと思います。
さて、現世に召喚された“彼”が、登場人物達とどのようなやり取りをするのか、これが「Fate/hollow ataraxia」の醍醐味の一つであります。

Fate/hollow ataraxia 初回版(DVD-ROM)

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