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そういう人で、私もありたい

2006年1月27日に引き続き、思わず読み返してしまう愛読小説の一説シリーズ(藁)。今日のは夢枕獏氏の「陰陽師 付喪神ノ巻」より「鉄輪」である。

陰陽師―付喪神ノ巻 (文春文庫)

陰陽師―付喪神ノ巻 (文春文庫)

(以下、ネタバレ注意)
あらすじは…「畝源三郎のホームページ in HeartLand-Ayame」にて書評があったので、こちらを引用させて頂く。

「鉄輪」の話の内容。藤原為良に捨てられた女(徳子姫)が、毎夜丑の刻に、貴船神社に参り、藁の人形で為良を呪っていた。それを見た神社の者が、その行為を辞めさそうと、その女が出向いてくるのを待ちうけ、今晩不思議な夢を見て、汝らしきものがきたら、今夜を最後に汝が願い聞き届けたり、「身には赤き衣を截ち着、顔には丹を塗り、髪には鉄輪(かなわ)を戴(いただ)き、三つの脚に火を灯(とも)し、怒る心を持つならば、すなわち鬼神となるべし」と伝えた。
しかしそれを聞いた女は喜んだ。そしてその後、言われた格好で為良の邸に現れる。源博雅から、事前にその話を聞いて事件に対処するために安倍晴明は、準備をして女を待つが・・・・・

謡曲の「鉄輪」を元に書き起こした短編であったが、作者の夢枕獏氏もこの話を気に入ったのか、後にエピソードを付け加えて長編「陰陽師 生成り姫」を書き起こしている。

陰陽師生成り姫 (文春文庫)

陰陽師生成り姫 (文春文庫)

また、NHKで放映されていたドラマでも、映画「陰陽師」でも*1このエピソードは登場している(民放放送のドラマは私は見ていないのであしからず)
このエピソードの最大のミソは、以前に徳子姫が源博雅と会っている点である(親密さは話によっても違うが)。清明は藤原為良を救うため、藁人形を為良に見えるようにしてやり過ごすことにしたのだが、途中で術が解けてしまう。この術が解けた原因が、話によって違う。
まず、原本である「鉄輪」では、藁人形に襲い掛かる徳子姫の様子に思わず呻いてしまうことによる。「生成り姫」では為良本人があまりの恐ろしさに悲鳴を上げてしまうことによる。映画版では、徳子姫が呟いた思い出の短歌の続きを思わず呟いてしまうことによる。のだが…
実は、この短編を読み返してしまう理由は、NHK版ドラマでのこのシーンのためである。NHK版ドラマでは、やはり原本の「鉄輪」と同様に源博雅のせいで術が解けてしまう。しかし、思わず呻く、というような生易しいものではない。
このNHKドラマ版では、博雅は徳子姫に淡い恋心を抱いていたのである。そして、為良を呪っていた女性が誰だか知らないで清明とともにやってきた。はたして、さて鉄輪を被って為良を殺しに来た女性が、徳子姫だと気付いた博雅は、事前に晴明に「物音を立てると術が解けるぞ」と注意されていたにも関わらず——いや、そんなことは最早考えに上っていなかっただろう。思わず叫んで飛び出してしまうのである。
「———何故貴女なんだ!!」

何というか、その源博雅の悲痛な叫びがあまりに印象的で、どうしてもここを読み返してしまわずにはいられないのである。
さて、その後どうなったかは…是非、小説をお読み頂くか、DVDをご覧になって下さい。
陰陽師 2 [DVD]

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ちなみに余談であるが、私は映画よりもNHKドラマ版の方が好きである。野村萬斎氏演じるの安倍晴明も、流石狂言師だけあってとても陰陽師然としているのだが、困った事に似合いすぎているように思うのだ。人間として完璧すぎる陰陽師になってしまっている。どうも原作の安倍晴明はそんな人物ではなく、かなり冷静な目で世界を見ている割には、どこか人間的な面で哀しみを湛えているような人物に思われる訳で、何故か稲垣吾郎が演じている方が、そういう感じに合っていると思えたのだ。そしてそんな哀しみを、あの思わず叫んで飛び出してしまうほどに愚直な漢である、源博雅が支えているという構図が、原作の、そしてNHK版ドラマの醍醐味だと思うのである。
事実、NHK版ドラマの最終回では、清明はライバル陰陽師蘆屋道満に、こんなことを言われている。そういえば、源博雅を演じていた杉本哲太も、蘆屋道満役の寺尾聰も、儚いイメージの蜜虫(式神)を演じた本条まなみも、誰しもあまりに嵌り役な名キャスティングだったなぁ。

本音を言ったらどうだ、晴明
この愚直な漢のそばにいたいのだと
この漢の、真っ直ぐな心だけがお前の孤独を癒す
初めて見つけたおまえの陽だまりなのだと

NHKドラマDモード「陰陽師」

陰陽師 5 [DVD]

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私は、源博雅のような純朴(愚直)な人間でありたいと思うのだ。

*1:ただし映画版では他のエピソードと混合された話になっており、また女に恨まれている男性が、時の帝になっている。

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