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刑事と民事の境界

讀賣新聞が度し難く救い難い墓穴を掘ったようである。

へなちょこ内科医の日記(奴隷勤務日誌兼絶望日誌)KU。
問題の箇所はココ。

「何が起きたのかを知りたい」という思いで、2007年1月から08年5月まで14回の公判を欠かさず傍聴した。証人として法廷にも立ち、「とにかく真実を知りたい」と訴えた。「大野病院でなければ、亡くさずにすんだ命」と思える。公判は医療を巡る専門的な議論が中心で、遺族が置き去りにされたような思いがある。

shy1221先生が述べられたことに僭越ながら追記。“真実の追求”が今回の裁判の目的であることは、遺族は元より当のマスコミの何度と無く触れ廻っていることである。その“真実の追求”のために専門的な議論が行われたにもかかわらず、“専門的な議論”が中心であった事を非難するような書き口はどうなのよ、という突っ込みがマスコミのマスゴミたる所以であり、ネット上で交わされる話であるが、実は、それ以上に“墓穴”たる理由があると考える。
今回の大野病院事件に注目が集まったのは、医療界や社会全体への影響や、臨床上不可避な事例(元々救命困難な症例)に関する案件だっただけでなく、“逮捕されたこと”——刑事事件として扱われたことにある。
従来の医療裁判は基本的には民事(私人間の生活関係に関する紛争)であり、生活や人命の損耗が存在する以上、本人あるいは家族(遺族)の感情等も斟酌されるべきであり、

そうだな…拙者は確かに奪い取った…
もう返すことも出来ないが…せめてその怒りには正面から応えなくてはな…

和月伸宏るろうに剣心 第二百四十八幕 『怒り』」

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となるのは必然である。
しかし、もう一度言うが今回は「刑事裁判」である。「刑事裁判」は「違法性を有する犯罪であるか否か」を審議する裁判であり、犯罪であるか否かは構成要件該当性(充足性)を満たし、違法性を有し、責任能力があることが前提となる。これらの証明には客観的な事実に基づく高い蓋然性が必要である。この点が当事者の利益・不利益を調停する「民事」と決定的に異なることである。故に、客観的な事実に基づく高い蓋然性の証明には専門的な議論が不可欠かつ、そうでなければならないのである。そして遺族の感情etc.の非客観的事象は、犯罪として確定された場合に科される刑罰の軽重に関して「裁判官の良心」に基づき斟酌される(情状酌量etc.)ものである——要は「違法性が無く犯罪ではないが被害者から文句があるので懲役」などということはあり得ず、感情その他利益不利益に関する事象は民事裁判で解決されるべき内容であり、だからこそ刑事裁判と民事裁判は独立しているのである。
となると、冒頭の「公判は医療を巡る専門的な議論が中心で、遺族が置き去りにされたような思いがある。」という発言がどれ程的外れであるか明らかであろう。この言は刑事裁判の本質を完全に無視しており、“自分は司法に関して無知です”と自爆しているに他ならない、だから“墓穴”と言ったのである。記者は“いつもの医療訴訟”の記事のつもりで書いたのかもしれないが、それは今回の事件の重要性をまるで意識してなかったということであろう。だからマスゴミと呼ばれるのだ。

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