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なんちゃって「なろう系」

夢枕獏氏の「陰陽師」が描くところの安倍晴明蘆屋道満が現代に転生したら。

陰陽師 生成り姫 (文春文庫)

陰陽師 生成り姫 (文春文庫)



「おい晴明、これはどういうことだ」
「どういうことだと申されましても。ただ分かるのは、"かつての我々が生きていた御世"より一千年程後の世のようです」
「…泰山府君め、余計なことを。少々虐め過ぎたかの」
「道満殿、悪戯が過ぎましたな」
「なに、お前も道連れじゃ、面白いではないか」
「私は戸惑うておるのに、さすがは道満様ですな」
「どこに戸惑う理由がある。力の下に民が惑う。人は一千年経ても、本質は何も変わっておらぬ。人であること、民であること、まさに"呪"ではないか。」
「仰る通り、人は人であることから逃れられぬのかもしれません。それでも、この都は我々がいた御代よりも行き交う人が多うございます。闇に怯えることも少なくなったようです。我々が後の世に残さんと必死に記した書物も、この世なら望めばあらゆる人が知ることができます。"いんたーねっと"と呼ぶそうですが、この宇宙にある大地の普くすべての人が、知識を共にすることができるそうですよ」
「…ぬかせ晴明、随分この世に明らかではないか」
「道満様ほどではございません」
「…まあ、よい。で、どうする?」
「どうする、とは?」
「我らの生業は"呪"、人の心を掴むことだ。この世には"ミカド"だの"カンパク様"だのという輩はおらぬ。…いや、おるが牙を抜かれておる。この世なら、俺とお前でこの日の本の国を獲れるかもしれぬぞ。どうだ、面白くないか?」
「確かに"呪"は人の心を絡めとるものです。しかし、もはや古のモノ、この世に生きる人々にとって、私たちは"物の怪"でしょう。そんな"モノ"に、誰が付き従うと?」
「なんだと?」
「生きることすら必死であらねばならない、それが疫病であれ貧しさであれ謀り事であれ、それが私たちの世でのすべてあったのに、この世は、人の性は変わりないけれど、ただ少しだけ、何か"その先"を誰しもが見ている気がします。今思えば不可思議ですね。我らの世も、この世も、そのようなものを明らかに見ているものは多くは無いのですが、この世は、私たちの世より、少しだけ”何かが見える"気がするのです。私が戸惑うのはそこです。」
「…」
「だから、"明日が見えていない"私たちには、どうすることもできませんよ。以前道満様は仰いました。『散りゆく桜を止めるというのか』に『自然のままに散らせようと思います』とお応えしましたら『面白いことを言うようになったではないか』、そう仰いましたよ」
「…」
「ですから、この世の明日をどうするかはこの世に生きるものが決めるべきことです。泰山府君が如何様な戯れをされたかは存じませんが、『散りゆく桜を見る』のは、良い余興ではありませんか?」
「…ふん。儂に随分なことを言うようになったではないか、晴明。だがな、この世になら他にもっと望むことがあるぞ」
「なんでしょう?」
「酒だ。千年も磨きをかけたのだ。随分美味くなっているであろうよ。泰山府君の戯れだ。精々楽しませてもらう。ついて来い」
「ええ」
「呑もう」
「呑もう」
そういうことになった。

「ところで」
「何だ? 晴明」
「博雅はこちらには来ていないのですか?」
「…それは、出来ぬだろうな」
「何故?」
「…あの男は、あの御世のすべてに愛され過ぎた。人はおろか鬼神すらあの男を、あの男の才を愛したのだ。あの男の才は我らがいた世にこそ望まれたものだ。まつろわぬ我らの魂魄とは、同じくはならぬであろうよ」
「…」
「…ふん。これを読め」
「これは?」
「この世の書だ。一千年経ているのに、あの男の所業が詳らかに書かれておる。一千年だぞ。あの男、どれだけこの国に"呪"をかけているのだ。」
「…怒っておられるのですか?」
「さあな。まぁ、晴明、酒につきあえ」

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