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“この世全ての悪”

もう一つ、医療+Fate/stay nightという異色コラボ(藁)ネタを。(一応、ネタバレ注意)
Fate/stay nightでは“この世全ての悪”という存在が登場する。ゾロアスター教の悪の最高神の名「アンリマユ」を冠しているが、その実、「すべての災いはお前が存在しているからだ」という生贄としての役割を与えられ、“最高の悪魔”として仕立て上げられた、ある青年の霊体なのだ。結果、ソレのせいにすることによって自己の悪性を否定し、人々を救う“反英雄”である。汚れ役にして救い手となる、矛盾そのものの存在だ。
人間が勧善懲悪の話が好きなのは、古今東西問わず同じだろう。どの神話・伝承・物語を見ても、大体悪役というものが存在する。で、英雄やら正義の味方やらがそういう存在を亡ぼしてめでたしめでたし。これが大体のステロタイプ。そしてめでたしめでたしのまま幕が下りる。
ところがここに盲点が在る。英雄やら正義の味方は、悪役がいないと活躍できないのだ。故に世界はいつだって、“反英雄”を錬成し続ける。だから、現実には“幕が下りない”。事実、多くの場合英雄やら正義の味方が新たな権力者となって、歴史は繰り返されてきたのだから。
…医療の発展にも“悪役”が必要なんだって。

医療も所詮、人間の行為。カルマからは逃れられない。
それでも、俺達のやろうとしていることに意味は在るのだと、思いたいね。

悪は生み出されるものではない。作り出されるものだ。
確かに弱い人間はいる。だが種の中であぶれだす弱者はどのような生態系においても存在する。一つの命の悪など、自然界においてさしたる影響はない。
人間が最強で最低なのは、その機構自体が悪という事。
外道を育み、火を与える人間の情。
指導者とは特別ではない何者かであり、それになり損ねた数多の無関心が、頂点を歪めていく。

ただひたすらに生を謳歌する生命。
神さまなんてものまで持ち出して繁栄を肯定し、自らの悪性を拭ぎ払う。
この世全ての悪などと笑わせる。
それは人間の総称だ。我は人間より生まれしもの。人間である限り、君はあらゆる悪を再現可能だ。

醜悪な個人、醜悪な社会、醜悪な概念。
言い逃れはできない。同胞からして同胞を悪と見なせる生き物は、そも在り方を間違えている。

ああ、けれど――

「―――それでも、命には価値がある。
悪を成す生き物でも。人間に価値がなくても、今まで積み上げてきた歴史には意味がある。
いつまでも間違えたままでも―――その手で何かが出来る以上、必ず、救えるものがあるだろう。」

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