正しくありたいと思うのは何故か。
それはその人間が、自分を正しいとは思っていない時だ。
だから正しい行動をして、汚い自分を少しでもキレイに見せようともがいている。
まったく
「生真面目なアンタらしい。
ようするに特の高い人間になりたいんだ。」
不器用に―――無様に生きているんだな、この人間は。
「…そう、なのかも知れませんね。
けれど私には叶わない願いだ。私は壊す事でしか感謝されない人間です。人徳とは他人に親しまれる、他人に与える事ができる人間が持ち得るもの。
決して、私に与えられるものではありません」
世間に貢献する事。人を救う事が徳である。
彼女は壊す事しかできない。
繕う手を持たない人間には、真の意味で信頼は勝ち得ないのだと、彼女の目が訴える。
「それは誤認だと思うけどね。」
「いいえ。私には私財をなげうって貧窮の民を救う事も、新しい組織を作る事もできない。あくまで歯車の一つで、いつまでもちっぽけな一個人から抜け出せない。
…そんな人間に、高い徳なんて得られる筈がないでしょう」
「―――まさか」
やば、思わず本気で怒っちまった。
まずいなぁ、本気になってるかなあ、オレ。
「それだけは完璧に間違いだ。金で徳は買えねえよ。
徳ってのは魂の質だ。それは得るものじゃない。苦しみながら、自分の中で培うものだろ」
「――――――」
どんなに矮小な人間にも、どんなに無力な人間にも、どんなに無価値な人間にも。
それは誕生から共にある平等の機能、前に進もうとする意志によって磨かれる輝きだ。
…善悪の区別なく。
生き物として高みを目指すモノのみに、唯我の悟りが開かれるように。
「徳は―――自らの価値は、外的評価によるものではないと言うのですか」
「あ? いや、価値って話なら外的評価が全てだよ。
その為の徳、その為の自己練磨だ。せいぜい高値ふっかけて、自分を自分以上に買ってくれるヤツとくっつく為のパラメーターだよ」
内的宇宙の向上は、結果的に外的宇宙の向上に繋がる。
見栄っぱりで寂しがり屋な人間ほど『いい人』である事に固執し、その浅ましさに恥じ入るのだ。
嫌われたくないからいい人であろうとするなんて、自分はなんて利己的なんだろうと。
だが。
「―――それでいいじゃねぇか。誰かに認められたいって気持ちはな、誇っていい事なんだよ。その気持ちがあるヤツは、同じように、きっと誰かを認めてやれる。
アンタの方針が結局は自分の為だって言うんなら、間違ってなんかいねぇってコト」
共に楽しもうっていう、愛情の美点がそこにある。
また彼女はその域に達してないし、死ぬまでに気づくかどうか怪しいものだが。
この女、とにかく要領が悪いのだ。
そのクセなまじ器用だから、こんな風に何でもできる風になっちまった。
鉄面皮で後ろ向き。
ひたすら回り道をする自己改革。
間違っていると分かっていながら、大したものじゃないと毒づきながら、ジタバタあがいて、明るい方に向かっていく。
―――ああ、そういう人間に、オレは手を貸したのか。TYPE-MOON 「Fate/hollow ataraxia」
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